「五大記」第五十話を公開しました

五大記」の第五十話を公開しました。タイトルは「探査機」です。

「五大記」という物語集を構成している物語の多くは、神などの超自然的な存在者が登場する、神話またはファンタジーに分類することができるものです。しかし、いかなる超自然的な存在者も登場しない、SFに分類される物語も少なからず含まれています。第五十話も、SFに分類される物語の一つです。

SFの中では、ある恒星系から別の恒星系へ人間を移動させる手段として、「世代宇宙船」と呼ばれる宇宙船が使われることがあります。世代宇宙船というのは、目的地に到着するまでの間に乗組員の世代交代が何度も発生することを想定して設計された宇宙船のことです。そのような宇宙船を使うことによって、旅の期間が人間の寿命を遥かに超えるような遠方の天体にまで人間を送り届けることが可能になります。

しかし、世代宇宙船による旅には、一つの大きな懸念が伴います。それは、乗組員たちが次の世代へ文明を伝達することに失敗するのではないかという懸念です。航行中の世代宇宙船の乗組員たちが文明を喪失した場合、彼らは、自分たちの旅の目的が何だったかということを忘れてしまったり、さらにひどい場合には、宇宙船という概念が消滅してしまって、宇宙船の内部を世界全体と認識するようになったりすることもあります。ロバート・A・ハインラインの『宇宙の孤児』やブライアン・オールディスの『寄港地のない船』は、そのような状態に陥った世代宇宙船を舞台とする物語です。

「五大記」第五十話も、世代宇宙船を舞台とする物語です。そして、文明が崩壊する物語でもあります。しかし、文明の崩壊が起きるのは宇宙船の内部ではありません。宇宙船を建造して送り出した人々が住む惑星で、文明の崩壊が起きるのです。その惑星の人々は、自分たちが創造した生物によって制圧され、文明を喪失します。目的地での使命を果たした宇宙船の乗組員たちは、そのような状態に陥った惑星へ帰還することになります。乗組員たちは、果たして惑星の人々を解放することができるのでしょうか。この先の展開につきましては、ぜひ、本編を読んで確かめていただきたいと思います。