「五大記」第五十六話を公開しました

五大記」の第五十六話を公開しました。タイトルは「析出」です。

「五大記」を構成する物語は、神のような超自然的な存在者が登場する神話的なものが、その大半を占めています。しかし、そのような物語ばかりではなく、純然たるSFも、わずかながら含まれています。たとえば、第四十話「軸」は、宇宙の危機を救うために、宇宙を修復するための施設を探索する話ですし*1第五十話「探査機」は、世代宇宙船による探検隊員たちの旅を描く物語です。

「五大記」第五十六話も、第四十話や第五十話と同様、純然たるSFです。そして、第五十話と同様、世代宇宙船の旅を描く物語です。しかし、世代宇宙船が登場するという共通点があるものの、第五十話と第五十六話は、決して同工異曲というわけではありません。第五十話は、世代宇宙船を送り出した惑星に危機が訪れ、世代宇宙船の乗組員たちがその危機を救うという物語ですが、第五十六話は、世代宇宙船に搭載された人工頭脳が暴走し、宇宙船を増殖させ続けるという物語です。

近年、弐瓶勉さんの「BLAME!」や、それへのオマージュとして書かれた柞刈湯葉さんの「横浜駅SF」のような、都市や駅が無限に増殖し続けるという物語が話題を集めています。それらと同様に、宇宙船が無限に増殖する物語というのも面白いのではないか、と思ったのが、私が第五十六話を書き始めた動機です*2。宇宙船を無限に増殖させるためには、そのための資材をどこかから調達する必要があるわけですが、この問題については、航行しながら星間物質を収集して、それを増殖のための資材にするという方法で解決しています。

第五十六話に登場する世代宇宙船の乗組員たちは、船を増殖させ続ける人工頭脳の暴走を止めるための方法を模索し続けるのですが、この物語は、問題を解決する糸口さえ見えないまま結末を迎えます。この先、人工頭脳と乗組員たちの抗争がどのような経緯をたどることになるのかということについては、読者の皆様の想像に委ねたいと思います。

*1:この物語にも「神」と呼ばれる存在者への言及がありますが、彼らは超自然的な能力は持たず、物理法則の支配下にあります。

*2:SFの海は広大ですので、同じような物語はすでに誰かによって書かれているとは思いますが、私はそれほどSFに精通しているわけではありませんので、既存の作例は知りません。ご存知の方はご教示いただけますと幸甚です。