縁結びの神様を求めて:熊本編

私が日本各地の神社仏閣を見て回っている動機は、あくまで「物見遊山がしたい」というものであって、けっして信仰心に由来するものではありません。しかし、非モテの悲しき性か、旅先で縁結びの神様に出会うと、「我に良縁を授け給へ」とついつい真剣にお祈りしてしまいます。そこで、私のほかにも大勢いらっしゃるに違いない非モテな方々に参考としていただくべく、私が旅先で出会った縁結びの神様をブログで紹介していこうではないか、というわけで、「縁結びの神様を求めて」というシリーズを始めることにしました*1

シリーズの第一回は、「熊本編」です。紹介させていただくのは、熊本県玉名市に鎮座する疋野神社(ひきのじんじゃ)という神社にいらっしゃる縁結びの神様です*2

疋野神社の創建年代は定かではありませんが、公式サイトの中にある「疋野神社御案内(1)」というページによると、承和七年(西暦840年)に官社に列せられたと「続日本後紀」に記載されているそうですので、きわめて古い神社だということは間違いなさそうです。

疋野神社の祭神は波比岐神(はひきのかみ)*3ですが、この神様が縁結びをしてくださるというわけではありません。縁結びの神様に会うためには、この神社の立派な社殿の裏側へ回る必要があります。社殿の裏側に回ると、「疋野長者御神陵」という、玉垣で囲まれた一角があります。そこに祀られているのは小五郎(疋野長者)と玉世姫という夫婦神で、この二柱が縁結びの神様です。

ところで、「炭焼き長者伝説」と呼ばれる、次のような物語類型があります。

  1. 顔が醜いために縁談に恵まれない姫君が都にいる。
  2. あるとき、姫君の夢枕に神様(あるいは観音様)が立ち、「どこそこにいる炭焼きの若者と結婚せよ」と告げる。
  3. 姫君は、若者がいる山里へ行き、若者に結婚を申し込む。
  4. 若者は、自分は貧乏だからと言って結婚を断る。
  5. 姫君は、若者が住んでいる山が金を産出することに気づいて、金の価値を若者に教える。
  6. 若者は金を採取して長者となる。
  7. 若者が住んでいる山にある淵で姫君が体を洗ったところ、姫君は絶世の美女となる。
  8. 二人は結婚して、末永く幸せに暮らす。

疋野長者御神陵に祀られている小五郎と玉世姫とが出会った経緯は、この物語類型に属しています*4。おそらく、小五郎と玉世姫が縁結びの神様となった理由は、この物語類型と無縁ではないでしょう。なぜなら、この物語類型は、非モテというマイナスの価値をプラスに転ずる道を非モテたちに示しているからです。

非モテ」という現象が発生する最大の要因は、人間が何らかの価値観にもとづいて自分自身や他の人間を見てしまうという点にあります。本来、人間という存在者は、価値観というものが適用される範囲の外に存在するものです。この事実に目覚めることが非モテというマイナスの価値をプラスに転ずる唯一の道なのだということを、炭焼き長者伝説は非モテたちに示しています。つまり、炭焼き長者伝説の若者と姫君は、非モテたちにとってのロールモデルという意味での神様なのです。

*1:第一回だけで終わってしまって、シリーズにならない可能性もあります(^^;。

*2:疋野神社の最寄り駅はJR鹿児島本線玉名駅です。県道165号線を20分ほど北上して、県立北稜高校の前を通り過ぎてから右に曲がると、前方に大きな白い鳥居が見えます

*3:波比岐神大年神(おおとしのかみ)と天知迦流美豆比売(あめちかるみづひめ)との間に生まれた子供で、大年神は、須佐之男命(すさのおのみこと)と神大市比売(かむおおいちひめ)との間に生まれた子供です。

*4:ただし、小五郎と玉世姫の伝説は、玉世姫は最初から美しい姫君だったという設定になっていて、淵で体を洗って美人になるというモチーフを欠いています。