縁結びの神様を求めて:愛知編

日本全国の非モテの皆様に縁結びの神様をご紹介する「縁結びの神様を求めて」シリーズ。今回はその第二回です。

今回ご紹介するのは、愛知県あま市に鎮座する萱津神社(かやつじんじゃ)という神社にいらっしゃる縁結びの神様です*1

萱津神社は漬物発祥の地として知られていて、毎年八月二十一日に執行される「香の物祭」という祭典には、日本全国から多数の漬物関連企業の関係者が参集するそうです。主祭神鹿屋野比売神(カヤヌヒメノカミ)という女神様で、境内には、長房一洋さんが平成四年に制作した、この女神様の神々しい立像が建立されています。

この神社にいらっしゃる縁結びの神様というのは、鹿屋野比売神ではありません。縁結びの神様は、拝殿の横にある細い道に沿って境内の奥へ行ったところにある小さな祠に祀られています。祠の中を覗き込むと、枝がつながってアルファベットのHの形になった2本の木が見えます。この2本の木が、「連理の榊」と呼ばれる縁結びの神様です。

そう聞いて、「なあんだ連理木か。そんなもの、どこにでもあるじゃないか」と思った方もいらっしゃるでしょう。確かに、連理木というのは日本の各地に数え切れないほどあって、その多くが縁結びや夫婦円満の神様として崇められています。萱津神社の連理の榊もそのような連理木の一つだというのは、確かにそのとおりです。しかし、この連理の榊、そんじょそこらの連理木とは一線を画した神様です。なんと、日本武尊のお手植えなのです。

日本武尊は、いったいいかなる経緯でこの地に榊を植えたのでしょうか。その経緯については、次のような伝説が伝わっています。

――日本武尊は、東国を平定したのち、宮簀姫(ミヤヅヒメ)と結婚し、萱津神社のある萱津の地に住んでいた。あるとき、伊吹山に邪神がいると聞いて、その神を討伐するために出かけたが、戦いで病を得て萱津へ帰ってきた。ところが、そのとき宮簀姫は里方へ帰っていて、二人は逢うことができなかった。尊は大いに悲しんで、「後世の人にこのような悲しみがないように」という祈願を籠めて、雌雄二株の榊を植えた。

ところで皆さんは、縁結びの神様というのはどのような神様のことだと考えていますか。おそらく、良縁を授ける能力を持っている神様のことだと答える人がほとんどでしょう。私も、その定義が間違っているとは思いません。しかし私は、縁結びの神様の定義は、次のように改良すべきではないかと考えています。すなわち、「縁結びの神様とは、良縁を授ける能力、または非モテの原因を除去する能力を持っている神様のことである」と。

いかなる非モテにも、かならず何らかの原因があります。縁結びの神様がいくら良縁を授けたとしても、非モテの原因が除去されないうちは、その良縁が実を結ぶことは期待できません。逆に、原因を除去することができたならば、神様から良縁を授からなくても、自力で良縁を獲得することができるはずです。そうだとすれば、たとえ良縁を授ける能力がなくても、非モテの原因を除去する能力を持っているならば、そのような神様のことも「縁結びの神様」と呼ぶことができるのではないでしょうか。

私が定義する縁結びの神様は、三つのタイプに分類することができます。良縁を授ける能力をR、非モテの原因を除去する能力をGとすると、Rは持っているけれどもGは持っていない「良縁タイプ」、Gは持っているけれどもRは持っていない「原因タイプ」、そして、RとGの両方を持っている「良縁原因タイプ」です。

縁結びの神様に願いごとをする人は、モテなのか非モテなのというかという自分のタイプに応じて、お願いする神様のタイプを選択する必要があります。神様が良縁原因タイプならば問題はないのですが、モテが原因タイプの神様にお願いしたり、非モテが良縁タイプの神様にお願いしても、期待したご利益は得られません。

さて、それでは、萱津神社の連理の榊は、どのタイプの神様なのでしょうか。先ほど、日本武尊のお手植えという伝説を紹介しましたが、この榊に関しては、神様のタイプを判定する上で参考となる、もう一つのエピソードが伝えられています。萱津神社の由緒書は、そのエピソードを次のように紹介しています。

五十七代陽成天皇様は女がお嫌いで皇后様をお迎えなされなかったため、朝廷では非常に心配されて、各国司に珍品の献上方を布令した。そこで、尾張国司は当神社の連理の榊を元慶元年(八七七)二月十四日に献上した(三代実録記載)御神慮によって、天皇は皇后をお迎えになられ、皇子様までお産まれなされたという。

陽成天皇は、ミソジニーを原因とする非モテでした。その原因を放置していたのでは、いかに霊験あらたかな神様が天皇に良縁を授けたとしても、ご成婚には至らなかったでしょう。萱津神社の連理の榊が霊験を発揮した結果として天皇が皇后を迎えたというエピソードは、その榊が非モテの原因を除去する能力を持っているということを物語っています*2。ただし、良縁を授ける能力を持っているかどうかを、このエピソードから判断することはできません*3

したがって、萱津神社の連理の榊は、原因タイプまたは良縁原因タイプのどちらかということになります。つまり、良縁を授ける能力を持っているかどうかは未知数だけれども、少なくとも非モテの原因を除去する能力を持っている神様だということです。全国の非モテの皆様、名古屋方面へお出かけの折は、萱津神社の縁結びの神様に参拝するのをお忘れなく。

*1:萱津神社の最寄り駅は、名古屋鉄道須ヶ口駅です。駅から県道126号線に沿って東へ10分ほど歩くと、五条川という川に突き当たります。その川に架かっている法界門橋という橋を渡ってすぐに左へ曲がって、堤防の上の道を5分ほど歩くと、萱津神社に到着します。

*2:厳密に言えば、ミソジニー以外の原因を除去する能力を持っているかどうかは分からないわけですが、そのあたりは好意的に解釈することにしましょう(^^;

*3:萱津神社の連理の榊が良縁を授ける能力を持っているかどうかということについて、判断の材料となる事実をご存知の方がいらっしゃいましたら、ご教示いただければありがたく存じます。