「五大記」第三十二話を公開しました

五大記」の第三十二話*1を公開しました。タイトルは「裏書」です。

2006年6月10日(土)に同志社大学神学部の礼拝堂で、「「ダ・ヴィンチ・コード」を読み解く:キリスト教思想・聖書学・考古学の視点から」と題する講演会が開催されたのですが、その中で、なぜ「ダ・ヴィンチ・コード」が日本で人気を博したのかという理由について、とても興味深い見解を講師の小原克博さんが表明していました。小原さんによると、その理由の一つは、日本にはもともとグノーシス的なものを歓迎する下地があったからで、「風の谷のナウシカ」や「新世紀エヴァンゲリオン」や「攻殻機動隊」や「ハウルの動く城」などのアニメに日本人が熱狂したのも、そのような下地があったからなのだそうです。

小原さんが「グノーシス的」と呼んでいるのは、「常識的な世界の彼方にある違う世界を垣間見させる」ということのようです。グノーシス的であるとして小原さんが例示しているいくつかのアニメのうちで、「エヴァンゲリオン」は、そのような意味でも確かにグノーシス的なのですが、それだけではなく、「埋もれていた文献が発見されることによってキリスト教の教義に対する疑義が生じる」という意味でもグノーシス的です。人類補完計画のシナリオが記述されている文書が「死海文書」と呼ばれているところに、この意味でのグノーシス的な側面が端的に示されています*2

エヴァンゲリオン」の世界においては、セカンドインパクト使徒の襲来によって、キリスト教の世界観が宗教から現実へ昇格しています。そのような世界においては、バチカンの一挙一動によって人類の命運が大きく左右されることになってもよさそうなものですが、残念ながら、「エヴァンゲリオン」におけるバチカンの存在感はきわめて薄いと言わざるを得ません。「バチカン条約」*3という条約名としてバチカンが登場しますが、バチカンがその条約の締結にどのようにかかわっているのかというのは不明です。ただ単に、国際会議の場所を提供しただけなのかもしれません。バチカンが物語に深くかかわっている「エヴァンゲリオン」を観たい、と思うのは私だけでしょうか*4

「五大記」第三十二話は、一言で言えば、「バチカンの存在感が希薄ではないエヴァンゲリオン」です。ただし、「五大記」は、現実の宇宙とは異なる宇宙を舞台とする物語ですので、このエピソードも、舞台となっている惑星は地球ではありませんし、この物語に登場する宗教もキリスト教ではありません。また、天使と戦うために人類が建造する兵器がどのようなものであり、それを操縦する人々がどのようなキャラクターなのかということは、描写の対象外となっています。そのような細部につきましては、読者の皆様の脳内で補完していただければありがたいと存じます。

*1:2進数で表記すると第壱零零零零零話。

*2:現実世界での「死海文書」は、ユダヤ教エッセネ派に属するクムラン教団が残した文書ですので、グノーシス主義との直接の関係はありません。しかし、「死海文書」の一部をバチカンが秘匿しているのではないかという疑惑があることによって、それは「グノーシス的」と呼び得るものとなっています。

*3:一国が保有することのできるエヴァンゲリオンを3体までに制限するという条約。

*4:ダン・ブラウンが「エヴァンゲリオン」をノベライズしてくれないかなあ、というのは私の密かな願望です。それはおそらく、オプス・デイが暗躍し、人類にとっての重大な決断をローマ教皇が下す物語になるでしょう。