「五大記」第三十六話を公開しました

五大記」の第三十六話を公開しました。タイトルは「拒絶反応」です。

預言者によって預言された神の啓示にもとづいて成立した宗教は、「啓示宗教」と呼ばれます。アブラハム宗教は、典型的な啓示宗教と言えます。

啓示宗教は、新たな預言者が出現したとき、彼を預言者として認めるかどうかをめぐって、それを認める宗教と認めない宗教に分裂する可能性を持っています。イスラームにおいて預言者として認められているムハンマドは、自分に啓示を授けた神はユダヤ教キリスト教の神と同一の存在者だと認識していましたので、ユダヤ教徒キリスト教徒も自分を預言者として認めるべきだと考えていたはずです。しかし、ユダヤ教徒キリスト教徒の多くは、ムハンマド預言者とは認めませんでした。その結果、すでにユダヤ教キリスト教に分裂していたアブラハム宗教は、さらにイスラームにも分裂することになります。

私は、宗教の多様性が増大することは大いに望ましいことだと考えています。なぜなら、宗教の多様性が大きければ大きいほど、宗教を原因とする紛争が生じにくくなると期待されるからです。宗教の分裂は、宗教の多様性を増大させる要因の一つです。しかし私は、たとえそれによって宗教の多様性が増大するとしても、宗教の分裂は好ましいものではないと考えています。なぜなら、宗教の分裂は、分裂したそれぞれの宗教を信じる者たちの間にわだかまりを生むことになるからです。キリスト教徒とムスリムとの間に生じたわだかまりは、現在もなお世界の平和を脅かし続けています。

ユダヤ教徒キリスト教徒とムスリムは同じ神を崇拝しているのだから、彼らが平和的に共存していくことは難しくないだろうと考えている人が多いかもしれません。しかし、実際はその逆です。同じ神を崇拝しているからこそ、わずかな教義の相違にも神経を逆撫でされることになるのです。もしもムハンマドが、ユダヤ教キリスト教の神と同一の神から啓示を授かったと主張するのではなく、まったく別の神から啓示を授かったと主張していたならば、これほどまでに関係がこじれることはなかったでしょう。宗教の多様性は、既存の宗教を分裂させることによってではなく、オリジナルな宗教を創造することによって増大させるべきものです*1

「五大記」第三十六話は、架空の惑星を舞台とする物語です。その惑星の人間たちも、地球の人間たちと同様に、新たな預言者の出現に伴う宗教の分裂を経験します。そして、宗教間の対立の結果として生じた戦争によって塗炭の苦しみを舐めます。しかし、その戦争はこの物語の大詰めで終結し、新たな世界の到来が、この物語の結末となります。

戦争が終結したのちに到来するのがどのような世界なのかという点につきましては、本編を読んで確かめていただきたいと思います。ただし、残念ながら、意外性はほとんどないと思います。

*1:昨年、宮内春樹さんという人が神から啓示を受けて、聖久律法会という宗教団体を設立しました。私は、メタ教祖として、彼による新しい宗教の創始を心から祝福したいと思っています。しかし、彼の宗教に関しては一抹の危惧も感じています。それは、自分に啓示を授けた神を彼が「アッラー」と呼んでいることに対する危惧です。宮内さんは、ムハンマドに啓示を授けた神と自分に啓示を授けた神とは同一だと認識しているようです(さらに彼は、阿弥陀仏とアッラーは同一の存在であるという発言もしています)。しかし、既存のムスリムたちはおそらく、宮内さんがアッラー預言者であるということを認めないでしょう。自分に啓示を授けた神についての宮内さんの認識は、既存のムスリムたちと聖久律法会の信者たちとの間にわだかまりを生む可能性があります。