「五大記」第四十五話を公開しました

五大記」の第四十五話を公開しました。タイトルは「水」です。

江本勝水からの伝言』(波動教育社、1999)が刊行されて大きな反響を呼んでから、15年が過ぎました。この書物が反響を呼んだ原因は、江本さんがその中で、「水から結晶を作る直前に、「ありがとう」や「平和」などの「よい言葉」をその水に見せた場合は美しい結晶ができ、「ばかやろう」や「戦争」などの「悪い言葉」を見せた場合は汚い結晶ができる」という驚くべき主張をしたことにあります。

水からの伝言』は、科学の書物ではありません。しかも、それはSFでさえありません。水のような単純な構造を持つ分子の集まりが知性を獲得しているという話は、少なくとも、我々の宇宙と同じ物理法則が成り立つ宇宙においてはあまりにも荒唐無稽ですから、それはSFではなくファンタジーに分類されるべきものです。江本さん自身も、『水からの伝言』は「ファンタジー」または「ポエム」だと述べています。

しかし、『水からの伝言』は、科学とは何であるかということを理解している人々から批判を浴びることとなりました。その理由は、この書物が、ファンタジーではなくあたかも真実を述べているかのように作られていたからです。この点において、この書物は、オーソン・ウェルズによる「宇宙戦争」(The War of the Worlds)のラジオドラマに類似しています。このラジオドラマは、あたかもニュースの実況であるかのように作られていたため、それを聴いたリスナーの一部がパニックを引き起こすに至りました。

「五大記」第四十五話は、『水からの伝言』を、真実であると読者に誤解されることのないように、純然たるファンタジーとして再構築したものです。その舞台となっているのは、水が知性を持つことを可能にするような物理法則に支配された宇宙です。その宇宙には、知性を持つ水だけではなく、人間のような、知性を持つ普通の生物も存在しています。その宇宙に棲む人間たちは、長い間、水が知性を持つことを知らずに水と共生していたのですが、物理学者によって水の知性が発見されたことによって、水と人間とが交流を持つ新たな時代が始まります(前史として、江本さんのような人物も登場します)。

さらに、「五大記」第四十五話のストーリーは、水と人間との間のコミュニケーションが確立されたのちの時代にも及んでいます。果たして、水との意思の疎通が可能になったことは、人間たちに幸福をもたらすのでしょうか。それとも災厄をもたらすのでしょうか。この点につきましては、ぜひ、本編を読んで確かめていただきたいと思います。