「五大記」第三十五話を公開しました

五大記」の第三十五話を公開しました。タイトルは「改憲」です。

「捜神記」*1の中に、無鬼論というものを主張する人についての説話が収録されています。「無鬼論」という言葉の中の「鬼」は幽霊という意味で、無鬼論というのは「幽霊は存在しない」という主張のことです。この説話の主人公である阮瞻(げんせん)という人は日ごろから無鬼論を主張しており、その問題については誰と議論しても負けることがありませんでした。あるとき彼は、自分の家を訪問した客と幽霊の存在をめぐって議論をします。その客も弁舌の才のある人で、議論は白熱するのですが、阮瞻には勝てないと悟ると、「実は私は幽霊なのです」と言うや、異形の者に姿を変え、そして消滅してしまいます。

「五大記」第三十五話の基本的な構造は、「捜神記」に収録された阮瞻の説話とほとんど同じです。ただし、第三十五話に登場するのは無鬼論ではなく無神論を主張する人々です。彼らは、有神論を主張する人々との対立を深め、ついには、神を礼拝するための施設を破壊するという実力行使にまで至ります。ところが、彼らの前に、人間を遥かに凌駕する力を持つ何者かが出現します。

第三十五話の構造は、「捜神記」の説話とほとんど同じですが、まったく同じというわけではありません。まったく同じならば、出現した者は有神論者たちが存在を主張する「神」であるということになるわけですが、第三十五話には、出現した者の正体に若干のヒネリが加わっています。それがどのようなヒネリなのかという点につきましては、ぜひ、本編を読んで確かめていただきたいと思います。

*1:東晋元帝(在位318-322)に史官として仕えた干宝という人が著した怪異説話集。