「五大記」第五十五話を公開しました

五大記」の第五十五話を公開しました。タイトルは「通信機」です。

私は、現行の天皇制は奴隷制度の一種だと考えています。なぜなら、皇族として生まれてきた者は、職業選択の自由、信教の自由、参政権など、日本の国民には保証されている人権のうちの多くを、その出自を理由として侵害されることになるからです。特に皇太子と皇太孫は、皇族の身分から離れることさえも許されていません。ですから、この制度が続けば、天皇制の廃止を望む天皇が出現したとしても、不思議なことではないでしょう。

現実には、たとえ天皇制の廃止を天皇が望んだとしても、天皇には国政に関する権能がありませんので、天皇自身が天皇制を廃止するというのはほとんど不可能です。しかし、そのような不可能なことが可能になるというフィクションを創作することは可能です。「五大記」第五十五話は、そのような物語です。

「五大記」第五十五話の舞台は、日本をモデルとするタナメタという国です。この国の憲法は、「祭祀王制度」と呼ばれる制度を規定しています。これは、「祭祀王」という世襲制の地位に即位した者を国の象徴とするという、現実の日本の天皇制によく似た制度です。祭祀王の後継者として生まれてきた者は人権を侵害された状態に置かれるという点も、現実の日本の天皇制と同様です。

第百二十九代の祭祀王に即位したネビタゲムという人物は、祭祀王制度を廃止することによって、いかなる人間も祭祀王となる宿命を背負って生まれてくることがないようにすることを、自身の使命だと考えます。しかし、現実の日本の憲法と同じように、タナメタの憲法も、祭祀王は国政に関する権能を持たないと定めています。そこで彼が試みた方法は、憲法が持っている矛盾を明らかにすることによって、その矛盾を国民に解消させることでした。

ネビタゲムが明らかにした矛盾は、現実の日本の憲法にも含まれているものです。それは、政教分離の規定があるにもかかわらず、天皇制という宗教が国の制度に含まれているという矛盾です。もちろん、日本国憲法天皇制を宗教として規定しているわけではない、ということは事実です。しかし、天皇というのは神道の神々を祭る祭祀者であるということは、日本人に共有されている認識です。問題にされていないだけで、矛盾は確かに存在しているのです。

タナメタの国民は、憲法の矛盾を解消するために、祭祀王制度を廃止するか、それとも、政教分離に関する条項に例外規定を追加するか、という選択を迫られます。彼らがどちらを選んだかということにつきましては、ぜひ、本編を読んで確かめていただきたいと思います。