「五大記」第三十三話を公開しました

五大記」の第三十三話を公開しました。タイトルは「宝剣」です。

「五大記」第三十三話の元ネタは、二つあります。横山光輝『バビル2世』とポール・アンダースン「地球人よ、警戒せよ!」(Earthman Beware!)です。これらの二つの物語には一つの共通点があります。それは、地球に漂着して故郷の星に帰ることができなくなった異星人の物語だという点です。

『バビル2世』では、バビルという名前の異星人が、宇宙船の故障のために地球に不時着します。彼は、故郷の星に救助信号を送るため、「バベルの塔」と呼ばれる塔を建設するのですが、その塔は完成を目前にして崩壊してしまいます。彼は故郷への帰還をあきらめ、自分と同じ能力(地球人から見れば超能力)を持つ自分の子孫に、バベルの塔に残された異星の科学の産物を継承させようと考えます。そして5000年の時が流れ、ついに彼の後継者、すなわちバビル2世が誕生します。

しかし、そこから先の物語は、私としてはきわめて物足りない展開となります。物語は、バビル1世と同じ能力を持っているにもかかわらず後継者として不適格と判定されたヨミという人物とバビル2世との戦いを中心にして展開していくのです。ヨミを倒したのち、自分の先祖の星への帰還を果たすためにバベルの塔を再建するという展開にならなかったというのが、物足りないと私が感じた理由です。

「五大記」第三十三話は、異星人が持っていた形質が遠い子孫に隔世的に発現するというアイデアを『バビル2世』から借用しています。「五大記」第三十三話においてバビル2世に相当するのは、テムナという女性です。彼女も、バビル2世と同様に遠い祖先の異星人から受け継いだ形質を持っています。しかし、ヨミに相当するライバルはテムナにはいません。ですから、彼女をめぐる物語の展開は『バビル2世』とは異なっています。物語を展開する上でヒントになったのは、「地球人よ、警戒せよ!」です。

「地球人よ、警戒せよ!」では、幼い子供とその母親が地球に漂着します。母親は地球で死亡するのですが、子供は地球人に引き取られ、ジョエルと名づけられて育てられます。そして13歳でハーバード大学に入学し、相対論的波動力学の研究でノーベル物理学賞を受賞します。しかし、30歳のときに人々の前から姿を消し、アラスカの森の中で、故郷への帰還を可能にするための研究に没頭します。

ジョエルと同様に、テムナも、大学で物理学を学び、人類の生活に変革をもたらす理論を構築します。そして彼女も、自分と同じ形質を持つ異星人が暮している星を目指します。しかし、そこから先の物語は、「地球人よ、警戒せよ!」とは異なる展開になります。それがどのような展開なのかというのは、ぜひ、実際に読んで確かめていただきたいと思います。